漫画大国日本では当然ながら漫画家志望の人達は星の数ほどいます。
その中から本気で漫画家になろうと昼夜情熱をそそぎ、ペンだこを作っている人たちがさらに五万といます。
しかし数年後、この中から“喰える漫画家”へと上り詰める人はほんの一握りというのが現実です。
- その差は一体何なのか?
- 漫画家に必用なものとは?
この2つに焦点を当ててみました、20年以上この世界で食べてきて初めて解かったこともあります。
今ひとつ漫画家になろうかどうか“迷ってる”人がいたら参考にしてみてください。
Contents
漫画家になるには何が一番必用か?心構えとマインドについて
まずは自分自身と一度しっかり向き合ってください。
こんな人は漫画家に向いていない
- 将来を心配する人
- 堅実な人
- 真面目な人
- 普通の家庭生活に憧れている人
ハッキリ言ってサラリーマンの方が似合っています。
もし、「漫画家で食べていけなかったらどうしよう・・・将来が不安だ」
といった漠然とした不安を抱えながら漫画なんて描けないと思っていいです、がその不安そのものを上手く利用し漫画で表現できれば逆に武器になるという強みにもなりえます。
私がアシスタントをしていた頃の師匠は堅実で真面目なひとでした。
絵に対するこだわりは職人気質で、ペンを持つ握力は凄かったです。
線一本一本に魂込めて描いていました、なので指にはごっついペンだこが出来ていました。
しかし、オリジナル作品がほとんど描けない方でもありました。
99%は原作付で描いていたので、編集部は作画のクオリティを先生には求めていたわけです。
つまり堅実で真面目な人は与えられた仕事(原作)を忠実にこなしていく能力はずば抜けています。
ただし、こういう人は“自由に描いていいですよ”と言われたら・・・とたんに砂漠へ放り出されたような感じになりまず面白いものは描けません。
真面目なので普通に恋愛もしますし、普通に家庭も持ちますし普通にサラリーマンのように規則正しい仕事ぶりですから編集さんからも信頼はされます。
が、・・・
こういったタイプの人からは大ヒット作はあまり出ません。
自分は「絵しか描けない、話作りは苦手だ」という人はバクマンのように、原作を書いてくれる相棒を捜しコンビを組むといいかもしれません。
では漫画家に向いている人ってどんな人でしょうか?
漫画家になるためのマインド・気質など見ていきましょう。
マインド・心構え
一言でいえば・・・
「常識をわきまえた変人(普通じゃない人)」
ということです、あなたはどうですか?自分のことをどう思っているでしょうか?
では具体的に見ていきましょう。
努力
「漫画家になるために努力は必用だ!努力さえしていればいつか絶対に漫画になれる!!」
いかにも親や先生達が褒めてくれそうな文章ですね(笑)
これを読んで”その通りだ”と思った人は普通の人です、変人ではありません。
漫画家には向いてなさそうです。
私たちは小さい頃から家庭環境や学校で
- 「頑張ればいつかかなう・・・!」
- 「努力した者がむくわれる!」
などと知らないうちに植え込まれてきました。
でもハッキリいいます、漫画家になるのに努力が必用だなんて大きな間違いです。
自分のモチベーションを維持するのに必至だったり、頑張るんだと言い聞かせたり努力をしている人は長くはもちません。
努力しなければならないくらいのレベルでは漫画家として食べてはいけません。
息を吐くように、絵を描きながら次回作のアイディアを自然に頭の中では勝手に考えている状態。
これが、プロの世界です。
何年もやっていればこの感覚は分かってきますが、最初のうちはおそらく理解できません。
一本上げるのに必至です。(誰でもそうですw)
とにかく努力だとか言っているうちはダメです、“努力しなければ描けない”
じゃなく、“とにかく描きたい、描いて描いて描きまくりたい!”
寝ても覚めても漫画のことで頭が一杯くらいでちょうどいいんですが、遊ぶことも平行してやれる人が一番良いです。
で、湯船に浸かった時、ふとんに入った時、トイレの時、などリラックスしたときにアイディアは、”ふ”と降りてきます。
そしてそれを描きたくて描きたくて仕方が無い状態が普通な状態の人こそが、漫画家に向いています。
これは努力というでしょうか?
本人が描きたくて仕方が無いんですから、努力とはいいませんよね。
楽しんでいるわけですから。
3日間風呂にも入らず、ろくな食事もせず、2日以上寝もせず・・・端から見たら凄い努力家に見えるかも知れませんが違います。
努力が必用とか言っているうちは漫画家なんかにはなれません。
では、どうしたらそのような心境になれるのか?
2つ方法があります。
「悦に入ることと、読者からの反応」
集中して絵を描いているとよく悦に入ることがあります、恍惚感というかマラソンで言えばランナーズハイでしょうか(笑)
その状態をできるだけ沢山味わうことです。
そして誰でもかまいません読んでくれた人からの「面白かった!」という反応です。
但し後者はあまりないかもしれませんが・・・(^_^;
でもあれば、もの凄いエネルギーにはなるんです。
楽観主義者
もしあなたに何か世間から見て一般的に「不幸な出来事」が起こったとします。
この不幸な出来事自体はつらいですが、しかし漫画家は心の何処かで“これはネタになる”と具体的に思わないまでもどこかでそう考えています。
不幸な内容によっては不謹慎なことになるかもしれませんが・・・。
漫画家にとって日常はネタなんです・・・いや人生全てがネタなんです!
学生時代にいじめられていた経験や失恋や親の失業や、身近な人の死など・・・ありとあらゆる不幸を客観的に俯瞰して見ている自分がそこにいます。
まるでなにかの物語を見ているような感覚です。
そういう人はあまり落ち込みません。
落ち込んでも一時的なことで、必ず復活します。
そしてそれを元にマンガを描きます。
私もそうでしたw
例えばこれなんかはまさに不幸な出来事でしょう
▼
でも見事に漫画に昇華させ作品として完成させています。
もちろんハッピーなことがあればそれもネタになります。
とにかく楽観主義者は漫画家向きだと言えるでしょうね。
根拠の無い自信
自分ははたして漫画家になれるのだろうか?漫画家になって食べていけるのだろうか?
と若いうちは誰しも不安になるものです、当然ですどこにも保証は無いんですから。
ただ、一部の人間には心の奥底のほうで根拠のない自信のようなものを感じています。
私がそうでした、絵は稚拙で話しも長編は描けないし・・・
ネタ勝負的なショートばかりを描いていました。
ただ、どこかで声のようなものが聞こえるというか感じていたんです。
「あ、俺・・・大丈夫だわ、たぶん」
と・・・。
何の裏付けも根拠も無いんですが、たまにふとそんな感覚になっていました。
これはその後10年以上もたってからどうしてそう感じたのかが分かるようになりました。
※(故小林正観さんのおかげなんですけどね。)
技術について
さて、ここまでマインドについて語ってきました。簡単に言えば楽観主義者で根拠のない自信をもった変な奴が向いていると(笑)
技術は仕事量と時間が増えれば増えるほど自然に身についていくものです。
描いて描いて描きまくっていれば上手くなっていくのでとくに気にする必用はないです。
または自分は下手すぎてと思ってる人は、それを自分の”味“にする方向で活かしたらどうでしょう。
自分の欠点だと思っていた部分が実は強い”味方”だったなんてことはよくあることです。
中には誰がどう見ても優しい少女漫画キャラのようなタイプしか描けないのに、池上遼一のような漫画を目指しているとか・・・
こういう人は自分のタイプをまず冷静に把握しましょう。
もの凄い方向性の違いで無駄なことになりかねないです、うちに来ていたスタッフの一人もその感じがあったんですが・・・。
まぁでも”立原 あゆみ”を目指すならそれもありかなと。
好きこそものの上手なれ
これは本当でしょうか?(と、ちょっと疑ってみるのも大事。変人ですからw)
でもこれは正しいです。
ただし、“好き”にも色んなレベルがあります。
例えば
1000冊以上漫画をコレクションするような”好き”もあれば、そんなに買わないけどマネして描くのが”好き”という人もいるでしょう。
ひたすらストーリーばかり考えるのが好きとか、アニメは全部録画するアニメファンもいるでしょう。
漫画家になるにはコレクターの資質は必要ありません。
私はほとんど漫画は読みません。
自分の雑誌が送られてきても自分のをペラペラとめくって確認して、本棚行きです。
他の作家さんの漫画もほとんど読みません。
なぜなら興味が無いからです。
変わり者かもしれませんw
ホントに自分の好きな漫画しか読まないので、漫画(コミックス)も雑誌ももう10年くらいは自分から買って読んだことはないです。
昔はアフタヌーンとスピリッツは必ず毎回買って読んでいましたが。
だからといって漫画が嫌いになったわけでもないんです。
何が言いたいかというと、「人は変わる」ということです。
もしあなたが今ONE PIECEが大好きで毎回読んでいたとして、20年後(まだやっていたと仮定して)もまだ読んでいるでしょうか?
そしてまだまだ初心者の頃のように燃えさかる情熱が続いているでしょうか?
もし続いていたらいたでいいことですが、私には当時デビューしたてのころのような情熱は今はありません。
淡々と来た仕事をこなすだけです。
もちろん一生懸命描くことは同じです。
おそらく恋でも情熱でも好きなことでも、同じテンションを何年も維持するのは不可能だと思います。
さて、そうなった時最初は大好きだった漫画が単なる「仕事」になる・・・。
もちろん好きなことで食べていくと言うことはもの凄い幸せ者です。
好きだけでは解決できないこともあるということです。
漫画漬けの人は用心
さて漫画のことで頭をいっぱいにすることと、漫画を読みまくり集めまくりコレクションする事とは違うと言うことです。
漫画に凄く詳しい(元)漫画家友人がいますが、彼は漫画は描けなくなりました。
私なんかより今の人気漫画のことなどアンテナを張り巡らし情報はいつも新鮮です。
ただし、描こうとしないクセがついてしまったようでなかなか描きません。
漫画の情報を把握しそこで満足してしまっているのかもしれません。
あまり情報に踊らされないことです。
本質の面白さというのは、流行に影響されません。
たまには漫画から離れて、180度違った体験をしてみるのも刺激がありいいと思います。
本質はどこの世界にもあります、なにせ”本質”なんですから。
漫画家を諦める
何年かやってみていくつかは入賞までこぎ着けたが、結局やめてしまったという人もいるでしょう。
人生は漫画だけではありません、どの人生が正解とかはないんですから。
でも、ふとある日無性に描きたくなったらその気持ちは本物です!
何でも良いから素直に自分の描きたいことを表現してみましょう。
どこへ出すとかではなく、楽しんで描いてみてください。
そのあと、ネット上に配信するなり展開してもいいですね。
趣味の範疇で楽しむのは健全です。
自由に心を解放できるからです。
これが商業誌だとそうもいきませんからね。
諦めきれない(30才~)
もう何年も描いたがボツばかり食らって、気が付いたら30才・・・
これは非常に微妙な年齢です。
ナニワ金融道の青木雄二は44歳でデビューしましたが、彼はそれまでにもの凄い社会での経験値を積み上げていました。
その経験値があったからこそ作品に深みを増し名作となったんです。
ひたすら漫画だけを描いてもどこかで見たような、誰かの影響を受けたような似たような作品しか描けなくなっているかも知れません。
まさに「ドツボにハマっている」パターンかもしれません。
思考も狭くなり、袋小路に入り込んでることすら気が付いていないかも。
一度キッパリやめるという選択もあります。
もっと広い世界を見てみましょう。
諦めきれない(40才~)
よくアシスタントの人に多いパターンです。
慣れと居心地の良さと安定にいつのまにか満足している・・・。
私の所にも50才を過ぎた人がアシスタントで来ていました、凄くいい人でした。
漫画家になる夢も諦めてはいませんでした。
が、さすがに50を過ぎると門は狭くなります。
されとて就職も難しく、もうフリーのアシ一本で行くしかないとご本人は解っていたようです。
厳しい世界です。
まとめ
最後に・・・
よく高校生くらいの人が「自分は漫画家になりたいが、それで食べていけるのか自分の将来が不安です」といったような書き込みをみますが・・・。
それは誰でも同じです。
ごく自然な普通の考えだということ。
しかし、高校生とか大学生とかであれば一番の武器は「若さ」です。
4~5年漫画に青春をぶつけてみてもし砕けたとしても、まだまだ人生やり直せます。
私のようにもう超おっさんになってからは、まずつぶしがききませんから。
実際40代50代くらいまではバリバリやってたが、その後出版社がツブれたり雑誌がなくなったりして途方に暮れている人達も沢山います。(たぶん)
中途半端に終わるくらいなら若くして失敗した方が全然ましだと思いましょう。
失敗も貴重な経験値です。
だから、今若い人達には時間を決め(タイムリミット)その間はがむしゃらに頑張って頂きたい!
たとえ失敗してもいいじゃないですか、趣味として続ければ。
むしろその方が良い作品が出来るかも。
この記事へのコメントはありません。